子どもとデジタル利用:睡眠と視力への影響と家庭でできる対策
はじめに
子育てにおいて、スマートフォンやタブレットといったデジタル機器との関わりは避けられないものとなりつつあります。多くの方が、子どもにデジタル機器を使わせることについて、漠然とした不安を抱えているかもしれません。特に、成長期にある子どもの心や体への影響は、非常に気になる点でしょう。
デジタル機器の利用は、使い方次第で子どもに様々な影響を与えます。今回は、その中でも多くの親御様が心配されているであろう、「睡眠」と「視力」への影響に焦点を当て、なぜそうした影響が起こるのか、そして家庭でどのような対策が取れるのかについて、分かりやすくご説明します。
デジタル利用が子どもの睡眠に与える影響
デジタル機器の利用、特に寝る直前の利用は、子どもの睡眠の質や時間に影響を与える可能性が指摘されています。その主な理由の一つに、「ブルーライト」の影響があります。
なぜ睡眠に影響するのか:ブルーライトと脳の覚醒
- ブルーライトの影響: デジタル機器の画面から発せられる「ブルーライト」は、太陽光にも含まれる強い光の一種です。この光を夜間に浴びると、脳が朝だと錯覚しやすくなります。私たちの体内には「体内時計」があり、これは光によって調整されています。ブルーライトは、この体内時計を調整するホルモンである「メラトニン」の分泌を抑制することが知られています。メラトニンは眠りを誘う作用があるため、その分泌が抑えられると、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりすることがあります。
- 脳への刺激: デジタル機器で提供されるコンテンツ(ゲーム、動画、SNSなど)は、子どもの脳を強く刺激します。特に興奮を伴うような内容は、脳を覚醒させてしまい、眠りにつくのを難しくさせることが考えられます。
具体的な影響
- 寝つきが悪くなる
- 夜中に目が覚めやすくなる
- 睡眠時間が短くなる
- 睡眠のリズムが乱れる(夜更かしになりがち)
睡眠は、子どもの体の成長や脳の発達にとって非常に重要です。質の良い十分な睡眠が取れないことは、日中の集中力低下や情緒の不安定さにもつながる可能性があります。
デジタル利用が子どもの視力に与える影響
近年の子どもの近視増加傾向と、デジタル機器の長時間利用との関連性が指摘されています。画面を長時間見続けることが、目に負担をかける主な原因となります。
なぜ視力に影響するのか:画面との距離と目の緊張
- 画面との距離: スマートフォンなどの小さな画面を近い距離で見続けることは、目のピントを合わせる筋肉(毛様体筋)に強い負担をかけます。近くを見るとき、この筋肉は緊張した状態になりますが、長時間その状態が続くと、筋肉が疲れてしまい、遠くを見たときにピントが合いにくくなることがあります。これが「仮性近視(調節緊張)」と呼ばれる状態です。この状態が長く続くと、本当の近視につながる可能性も指摘されています。
- 瞬きの減少: 画面に集中している間、子どもは瞬きの回数が減りがちです。瞬きは目の表面を潤し、汚れを取り除く大切な働きをしています。瞬きが減ると、目が乾燥しやすくなり、「ドライアイ」の状態になったり、目の疲れ(眼精疲労)を感じやすくなったりします。
具体的な影響
- 目が疲れやすい、痛い
- 目がかすむ
- ドライアイ(目がゴロゴロする、乾燥する)
- 近視の進行リスク増加
成長期の子どもの目は発達途上にあり、デリケートです。デジタル機器の過度な利用は、目の健康に長期的な影響を及ぼす可能性があります。
家庭でできる対策
子どものデジタル利用による睡眠と視力への影響を軽減するために、家庭でできるいくつかの対策があります。
睡眠のための対策
- 寝る前の利用を控える: 少なくとも寝る1〜2時間前からはデジタル機器の利用を避けるようにします。これはブルーライトの影響を減らし、脳をリラックスさせるためです。
- 利用時間や内容のルール: 就寝時間だけでなく、1日の合計利用時間や、寝る前はリラックスできるような内容に限るといったルールを決めることも有効です。
- ブルーライト対策: 機器の設定でブルーライトカット機能を活用したり、ブルーライトカットフィルムを利用したりするのも一つの方法ですが、最も効果的なのは寝る前に利用しないことです。
視力のための対策
- 定期的な休憩: 20〜30分に一度は画面から目を離し、数分間遠くを見たり、目を休ませたりすることを習慣づけます。これを「20-20-20ルール」(20分ごとに20フィート(約6メートル)先を20秒見る)と呼ぶこともあります。
- 画面との距離: 画面から適切な距離(スマートフォンなら30cm以上、タブレットなら40cm以上、パソコンなら50cm以上が目安)を保つように促します。
- 正しい姿勢: 画面を見る際は、背筋を伸ばし、画面が目の高さより少し下になるように調整します。
- 画面の明るさ調整: 周囲の明るさに合わせて、画面が明るすぎたり暗すぎたりしないように調整します。
- 定期的な眼科検診: 子どもの目の状態を定期的に専門医に診てもらうことは非常に大切です。
共通の対策
- 家庭でのルール作り: 利用時間、利用場所、利用するコンテンツなどについて、家族で話し合い、子どもと一緒に無理のないルールを作ります。ルールは一度決めたら終わりではなく、子どもの成長に合わせて見直していくことが大切です。
- 親の見守り: 子どもがどのようなコンテンツを、どのくらいの時間利用しているのかを把握し、必要に応じてアドバイスや声かけを行います。一方的に禁止するのではなく、「なぜこのルールが必要なのか」を子どもが理解できるよう、丁寧に伝えることが信頼関係を築く上で重要です。
- 他の活動とのバランス: 外遊びや読書、家族との会話など、デジタル機器以外の活動時間を十分に確保し、生活全体のバランスを取ることが、心身の健やかな成長につながります。
まとめ
子どものデジタル利用は、現代社会において避けて通れない側面がありますが、その影響を理解し、適切な対策を講じることで、リスクを減らすことが可能です。特に睡眠と視力は、子どもの成長に直結する大切な要素です。
今回ご紹介した影響のメカニズムや対策は、あくまで一般的なものです。すべての子どもに同じ影響が出るとは限りませんし、個々の状況によって適した対策は異なります。
大切なのは、デジタル機器の利用を「良いか悪いか」という二者択一で捉えるのではなく、メリット・デメリットを理解した上で、子どもの健やかな成長のためにどのように付き合っていくかを、家族で一緒に考えていく姿勢です。
もし、お子様の睡眠や視力について気になる症状がある場合は、自己判断せずに専門医に相談することをお勧めします。この記事が、皆様のデジタルとの向き合い方を考える上での一助となれば幸いです。